「狡猾さには様々なタイプがあるが、幸い、生き残るために必要なのは1種類だけだ」
マクシム・“Kapkan”・バスーダと彼の兄弟は、ロシア軍の影響が色濃いコブロフで育った。父親は機械技師、母親は織物作業員として、共に軍事支援工場で働いていた。バスーダは両親と教師に勧められ、警察官としてロシア内務省で働くこととなった。武器の扱いや、護衛、迅速な追跡などの標準的な訓練に加え、人質救出や情報収集において優れた能力を示した。巧みな戦術眼と高い自己完結能力を買われたバスーダは、バレンツ海のナリヤン・マルという港町で潜入捜査にあたることになった。そこで素晴らしい働きを見せたバスーダは組織犯罪の撲滅に貢献し、かのスペツナズの一員として迎えられる。北極圏での生活で狩りとトラップの技術を身に付けた後、2002年にベスランへ転属となった
第一印象におけるマクシム・“Kapkan”・バスーダは、世界とそこでの自身の役割にうんざりしている様子だった。そういうタイプの人間ほど一見投げやりに見えがちだが、実際は真剣に考えているからこそなのだろう。バスーダにとって重要なのは自分が持続的に貢献できているということであり、彼の皮肉な態度は、他の兵士を指導するためにあえて取っているポーズなのだ[…]チームの中には彼を過激と捉える者もいるが、聞こえてくるのは彼を評価する声ばかりである。彼にこう尋ねた。長い年月で変わったと思うかと。彼は笑って1つだけ変わったことがあると答えたが、朝食のフリントコーンをずっと食べ続けていた。いらないことを言ってしまったとばかりに[…]
バスーダは武器や狩りなどを中心に多くの趣味を持っていたため、私は彼が最も魅了されているものについて話を聞きたかった。バスーダは狩りについて話してくれた。狩りには、戦略的な思考や動物の行動パターンへの理解が要求される。また狩る側は獲物に敬意を払わなければならない[…]動物への敬意を忘れないことこそがハンターの真髄であり、真のハンターは自然環境の保護やバランスを保つことの必要性を理解しているものだと彼は話す。狼や熊は、それぞれの役割を完璧にこなしているそうだ。このようなことへの理解は、彼のオペレーターとしての働きにも役立っていると言う。動物との類似点や相違点を踏まえれば、人間に対しても応用可能であるからだ
人生は厳しいものであり、より厳しいものにしているのが人間だとバスーダは言う。重要なのは、断固とした行動と抜け目のなさだそうだ。おとぎ話に出て来るような狼ではなく、本物の狼のように、バスーダは自分自身を忠実と評価する。狼は家族に忠実だと彼は話す。群れの全員で子を育て、狩りのときはチームとして共闘する[…]話を聞いていると、彼は何らかの孤独を感じているのではないかという印象を受けた。群れから離れた狼のような孤独を。私がそう言うと、彼は笑い、指先でこめかみを軽く叩いた。彼は自分が脳科学に関心があると話し、私の研究が精神に関するものにもかかわらず、結局いつも心の話になっていることを指摘した。彼の話は極めて理性的で、私は同意せざるを得なかった
– DR.ハリシュヴァ・“Harry”・パンデー。レインボー・ディレクター