「俺が携帯で何をしているかは聞かない方がいい。“知らぬが仏”というだろう」
江夏は東京の杉並区で育った。幼少の頃からロボット工学に魅了され、陸用・飛行型の両方のドローンを設計・プログラミングし、数多くの大会で優勝している。首都大学東京で電気電子工学を学んだ後、警察庁警備局の一員として研究開発に没頭する。テロ対策および情報収集の訓練を受けていた江夏は、警備局の助力となるような特殊技術の開発に従事した。名古屋での立てこもり発砲事件後の合同訓練をきっかけに、江夏は愛知県警察特殊部隊に入隊し、その執拗なまでの探求心で独創的な解決策や新たな戦略を生み出した。ついには、その類まれな情報収集能力や迅速かつ予測不能な任務遂行手段がレインボーの目に止まり、東京に帰還することとなった
江夏“Echo”優のファイルには彼の行動に関する警告がいくつか書かれているが、まだ控え目に書かれている方だろう。最初の面談を行った頃には、私はすでに他のレインボー部隊のメンバー全員と面会を済ませていた(2回以上会ったメンバーもいた)。江夏が私を避けていたことは認めざるを得ないが、話せば分かり合えることも分かっていた
大抵の場合、私は本人に会う前にあらかじめファイルに目を通すことはしない。その人物がどんな人間なのかは本人の言葉で聞きたいからだ。しかし、今回は彼が他者にどう思われているかを先に知る必要があった。江夏が私の反応に対して身構えていたためだ[…]
どうやら彼は家族との折り合いが良くないらしい。冗談めかして、両親に比べたら計算機の方がまだ感情の起伏があると話していた。そのような両親に育てられたからか、彼は友情や相互利益に基づく関係性に慣れておらず、集団行動に抵抗を感じていた。レインボーで過ごす時間が彼を成長させてくれることを願っているが、彼が同僚のオペレーターたちの「人工知能」に興味を持ち、ボタンを押したくなるように、チームの中で努力する必要もあるだろう[…]
江夏が用いる戦術は、狡猾かつ予測不能と表現される。この特徴をチームの戦術に落とし込めば強力な効果を発揮するが、それにはコミュニケーションが不可欠となる。[…]また、私は江夏の潜在能力を最大限に活用する方法をチームに考えてもらうよう促がさなければならない。チームの中には彼に問題があると決めつけている者もおり、そのような状況のままでは結果も見えている[…]
そんな中でも、今川“Hibana”由美子とグレース・“Dokkaebi”・ナムは、江夏と共に研究開発を頻繁に行っている。また、タイナ・“Caveira”・ペレイラとも良好な信頼関係を構築しているようだ。おそらくペレイラの率直さを評価しているのだろう。彼女の率直さは、「腹を立てた人間は冗談も理解できない」という彼の仮説にも結びつく[…]
江夏は苛立ちやすい。彼は任務外のことに対する関心をほとんど持っておらず、自らの業務効率を向上することにしか興味がない。どんな人間にも気晴らしが必要であるということを彼には理解してもらわなければならない。負荷の高い仕事に就いているなら、尚のことだ。「スイッチを切る」ことは、必ずしも弱さの証ではない。「頭を休めることは知能の欠如である」と信じてこざるをえなかった者にとってもだ
– レインボー・ディレクター、DR.ハリシュヴァ・“Harry”・パンデー